【 薔薇園にて 】
暮林の温室は見事なものだった。
植物園の目玉として薔薇の庭園があり、その一角に研究室を兼ねた薔薇の温室がある。
暮林は衛の大学の先輩だ。在学中から薔薇の栽培には熱心で、学部は異なるが薔薇に興味深い衛とは親交を続けている。
「…凄いね、これだけの種類の薔薇を綺麗に咲かせるなんて」
「ああ。いつ来ても、ここの薔薇は実に見事だな」
結婚して尚、大学院に残って研究を続けて来た暮林は、衛よりずっと年上だった。
家庭にも恵まれ、毎年のように子供が増え続けている。自宅も植物園と隣接していていつも賑やかだ。
その家庭の明るさに憧れるのか、衛は時々ここを訪れる。暮林もいつも笑顔で衛を迎え、彼の薔薇への愛情に喜んだ。
そして新種の薔薇が成功すると、暮林は衛に連絡を寄越し、学会に発表前だと言うのに惜しみなく披露してくるのだった。
今日も、新種の薔薇が見事に咲いたので是非見に来てくれとの一報が入り、衛も嬉々として参上した。
「よぅ!衛、良く来たな」
「先輩、お久し振り」
「今日は友達と一緒か?また別の美人を連れて来て。しかし衛の連れは男友達でも美形だなぁ」
「…先輩」
以前うさぎ達を連れて来た時も誤解を招く発言をされて迷惑したのだ。思わずフィオレを振り返る。
だがフィオレは気にする事もなく、温室の薔薇を眺めて満悦とした表情を浮かべていた。
「フィオレ、こちらが暮林先輩。先輩、こっちはオレの友達でフィオレ。彼も花に興味があるんで今日は一緒に」
「やぁ、いらっしゃい」
「あなたが、これを全部?」
「オレ一人じゃないさ。薔薇を育てるには沢山の愛情が必要なんだ。スタッフの皆や、オレに協力してくれる家族の力で花は咲いている」
「…ここの薔薇達はみんな、幸せそうに咲いてる。薔薇が喜んでいる」
「そうかい?有難う」
暮林はフィオレの言葉に素直に喜んだ。フィオレは植物と同調出来る。彼の言葉はそのまま花の言葉なのだろう。
「…っと、こうしちゃいられないんだ。済まん、衛。せっかく来てくれたのに実はカミさんが急に産気づいちまったみたいでな。たった今、実家から連絡が入ったんだ」
「ええ?」
「これから子供達を連れて病院に行かなきゃいかん。今日は休園日だが、自由に見て回ってくれて構わんからな。ほら、帰る時にここを締めて、鍵は事務所にでも預けといてくれ。じゃあ、ゆっくりしてってくれよ」
「…はぁ」
暮林は踵を返して慌てて走り去って行った。
「…また家族が増えるのか。凄いな、先輩も。…残念だけど新種の薔薇どころじゃないか。フィオレ、せっかくだから少し散歩して帰ろう」
「うん。ここは凄く居心地が良い」
フィオレが馴染めない地球環境の中で、比較的植物が多い場所だと彼の気分は優れるようだった。今回ももう長い間地上に留まっているので、別れの時は近いのだと知れる。最近調子の衰えて来たフィオレを気遣って、衛は敢えてこの場所に誘った。
「衛くん、僕…もうそろそろ行かなくちゃ」
「…そうか。また暫くお別れだな」
衛の予想通り、フィオレは別れを仄めかす。また帰って来るとは信じていても、宇宙への帰還だ。不安は大きい。正直傍に居れば迷惑だと感じる事も多いが、いつも別離の時は寂しさが込み上げて来る。
「衛くん…、」
「ん…」
フィオレが抱き着いて来てキスをする。唇が重なった途端に温かい舌が割り入って、衛の咥内を弄った。いきなりの深いキスに動揺して、衛は抵抗出来ずに舌の愛撫に応えた。慣れたせいか無意識に自らの舌を絡ませる。フィオレは力強く衛を抱き締めて長いキスを続けた。
「…んん。フィオレ、放してくれ」
「逃げないでよ」
「馬鹿、こんなところで。誰かに見られたら」
休園日なので温室には人の姿は見当たらない。だが植物園の手入れや世話は年中無休なのか、職員を数人園内に見かけた。衛は慌てて辺りを見回し、暮林が去った後、誰も温室には居ない事を確かめて安堵した。
「ねぇ、衛くん。行く前にもっとしたい。いっぱい君を抱きたい」
「フィオレ!だからこんなところじゃ…」
「誰も見てないよ」
逃げる身体を後ろから抱き締めて首筋に口付ける。舌が首筋から耳たぶを舐め上げ、ぞくりとした感覚が背中を走った。思わず鼻の奥に息が詰まる。
「ん…っ!」
「ほら、可愛い声が出るじゃないか」
「…!やめろよ!放せって!」
衛は顔を一層紅めフィオレを突き放すと、温室の出口へと向かった。唾液に濡れた唇を手の甲で拭いながら小走りに進む衛に、フィオレは簡単に追い付きその腕を取った。
そしてそのまま温室の硝子壁に衛を押し付けると、再び衛に深いキスをした。
「んふっ…!んんっ!」
両手首を掴んで自由を奪い、衛の咥内を何度も舌で弄る。衛を押し付けている背中の硝子が軋んで音を立てる程、フィオレは衛の唇を激しく味わった。衛も殆ど抵抗はせずにフィオレのキスに応えて舌を貪った。
「フィオレ…、駄目だよ」
「ここじゃなきゃ、いいの?」
「……」
衛もその気になっているのは判っている。ただ彼は意外にモラリストで、自宅のベッド以外の場所だとキスをするにもやたらと頑なになる。
「ごめん、待てないよ。今ここで衛くんを抱きたい」
「え?…わっ!」
片方の手首を掴んだまま衛の身体を反転させると、今度は硝子に胸が着く格好でフィオレは背後から衛を押さえ込んだ。壁に突っ伏した衛は、両手を硝子に付いて自分の身体を押さえる。無防備になった腰に手を伸ばし、フィオレはズボンからシャツをたくし上げると、隙間から手を忍ばせて衛の胸部を撫で擦った。
「フィ、フィオレ…!」
「じっとしてて」
手探りで衛の胸の突起に辿り着くと、指で撫で上げる。触れた途端に小さかった突起は固くなり指の腹で転がった。逃げようとする身体を片手で押さえながら、フィオレは右と左、繰り返しながら衛の乳首を摘んでは弾き、指に絡む程に勃ち上がらせた。
「やめ…、あっ!」
首筋や耳たぶを唇で愛撫しながら、フィオレは胸や腹を撫でていく。臍に指先が入って来ると肩が震えた。衛自身驚く程に性感帯が存在しており、フィオレはその一つ一つを熟知しているかのように狙ってくるのだった。
「ん…、あっ…」
「衛くん、気持ち良いの?」
フィオレの手がズボンのベルトを外し、ジッパーを下そうとする。その行為に衛は漸く我を取り戻して大きく頭を振った。
「やめろ!こんなところで・・・。本気なのか?お前」
「僕はいつだって本気だよ?」
フィオレは外見に寄らず腕の力が強い。衛も決して華奢ではないのだが、押さえ込まれると身動きを封じられて逃げる事が出来なくなる。
振り解こうとする腕を力ずくで掴まれながら、背後から腰を押さえ込んでいるフィオレを突き放そうともがいたが、やはり逃れられない。
簡単にジッパーが下され、滑り込んで来た指が衛を捕らえ、下着の外に付根まで掻き出した。
「嫌だ…、んんっ!」
「あれ?もう感じてるじゃない」
掴んだ性器を握り締めると、衛は小さく喘いだ。下着の外に晒された途端に衛のペニスは脹らんだ。首筋や胸に与えられた愛撫で既に反応してしまっている。
「衛くんのここ、僕に触られると喜ぶね」
「ば…馬鹿」
「ほら、こうするともっと良いでしょ?」
「あ…、あぁ!」
半分勃ち上がった状態で思い切り擦られる。擦られながら、指が雁首を撫でて溝の合間を擽る。自分でやるのと違って他人に扱かれると快感が訪れるのが早い。
衛は硝子に手を着いて下半身の疼きを堪えた。最早抵抗する気も失せている。
「衛くんだって、すっかりこんなじゃないか。ねぇ、抱かせてよ」
「…フィオレ」
温室は全面硝子張りで、外からも丸見えだ。下半身を露にして外に向かって立たされてる自分に羞恥して、衛の顔は紅潮していた。遠くから聞こえる作業の音に敏感に反応している。
「ここじゃ駄目だ…、誰かに見られる…っ」
「見られた方が興奮するかも?」
「嫌だ!…あっち、見えないとこで…、んっ」
「ここじゃなきゃ、セックスしてもOKって事だね?」
「……」
フィオレの腕が離れ、衛は無言でズボンを正した。そのまま逃げずにフィオレを睨める。
応えられない衛の表情を楽しみながら、フィオレは衛を促して、通路に繋がる出口の横の正面からは死角になった位置へと場所を移した。ここは背の高い薔薇に囲まれていて、しゃがむと二人の姿は隠れてしまう。
綺麗に手入れされた温室内は、薔薇の合間に設けられた通路が柔らかな芝で飾られていた。新しい苗木を植える為かその一角が遮られており、綺麗なシートが被せてある。二人が身を横たえるには好都合の場所だった。
衛を薔薇が植えられた隙間のシートの上に座らせると、フィオレはそのまま衛の身体を押し倒そうとした。その行動を衛に制される。
「ま、待てよ」
「どうしたの?ここなら大丈夫だよ」
「違う…、服が汚れる…」
今日の衛の服装は、ベージュ系のジャケットとズボンだった。このまま横になって乱れれば、土や芝に汚れて皺にもなるだろう。
「帰る時、困るから…」
「じゃあ、脱ぐ?こんなところで君を裸にするつもりはなかったんだけど、君が望んでくれるなら大歓迎」
「…あのな」
衛は頬を紅潮させたまま困惑したが、小さく嘆息して自ら上着の袖を腕から外した。そして座ったまま今度は自身でジッパーを下げ、ゆっくりとズボンを腰からずらした。下着からは弄られて反応した衛自身が覗いている。衛は目を反らして下着も一緒に膝まで下し、靴を脱いだ足から一気に取り去った。
「あ、靴下は履いていて良いのに」
「馬鹿!そういう趣味あんのかよ」
「…ちぇ、可愛いのに」
残念がるフィオレを無視して靴下を脱ぐと、丸めて靴の中に放り込む。衛はシャツ一枚の姿でフィオレの前に足を開いて座った。シャツの裾に隠された性器は反応して形を作ったままだ。
「フィオレ。鍵…、ちゃんと掛けて来い」
「誰も来ないよ」
「いいから!」
「判ったよ」
フィオレは暮林から預かった鍵を持って温室の扉を閉ざした。園内に人の気配はあるが、温室の中は別空間のように二人の呼吸を閉じ込める。
硝子に覆われた薔薇の密室を封印して、フィオレは再び衛の前にしゃがんだ。衛は動かず、同じ格好でその場に居た。顔も紅いままだ。
「…いいぞ」
「衛くん、シャツのボタン、全部外してよ」
「ん…」
フィオレの指が衛のシャツのボタンを上から順番に外しにかかる。衛は両手を尻の横で地に着けたまま、黙ってフィオレの行為に従った。
ボタンが半分外され、胸元が露になる。先程指で摘まれて固くなった茶褐色の乳首が、シャツの合間から覗いた。
ボタンが全て外され、シャツの前が全開になった。引き締まった腹の筋肉の下に、反応を示した衛の性器が勃ち上がっている。
「…本当に誰も来ないだろうな」
「大丈夫。鍵だってちゃんと掛けたし。それに僕は君より感覚が発達してるから、誰か近付いたらすぐに教えてあげるよ。君に恥かかせたりしないから、安心して」
「…絶対だぞ」
「僕だって衛くんのこの姿、一人占めしたいもん」
跪いた格好で衛を抱き締めると軽く口付けする。唇が交互に触れ、僅かに覗いた舌の先が絡み合う。そして徐々に舌が深く互いを求め、再び長い接吻が繰り返された。
抱き合う二人の動きで、薔薇の花びらが数枚散って衛の腹の上に零れた。フィオレはその花びらを払うと、そのまま衛のペニスを掴んで先端を口に頬張った。柔らかな舌が雁首を撫でた途端、衛の身体は大きく震えた。
「ん…、口でしなくても…」
「だって、もう零れてるよ?」
「…あっ!!」
無意識に閉じようとする両足を思い切り広げ、その間に顔を埋めてフィオレは衛をしゃぶった。舌先で舐められ、唇で吸われて、その快感に衛は仰け反った。
下半身の疼きが伝わって、身体を支えている腕まで痙攣して来る。我慢出来ずにそのまま衛は後ろに身を倒した。
「あ…、んっ!」
「いいよ。そのまま楽にしてて」
「んくっ…!!」
「凄いな、こんなにビクビクしてる。衛くん、舐められると、イイんだよね」
「…違うっ!そんなこと…ない!」
「そう?」
フィオレは倒れた衛の膝を抱えて更に両足を開かせた。そして大きく脹らんだ衛のペニスの先端を軽く噛んでは吸い上げ、小刻みに刺激し続けた。
「…あっ!…んんっ!」
「ほら、ここは正直じゃないか」
「…んっ!!」
衛は両手で口を押さえて、漏れる喘ぎを押し殺した。宙に浮いた足先が暴れる。
フィオレは衛の両足を掴んで広げたまま、咥えるのを止めない。指を使わなくても、口だけで充分な快感を与えて来る。
「フィオレ…、駄目、もう!」
「いいよ。このまま出して」
「…嫌だ…」
「いいから。僕の手に出してよ。何も準備して来てないから」
「……あっ!」
フィオレは頃合を見図って指を添えると、握った衛のペニスを強く擦り上げた。
いきなり、舌先での愛撫と違った、搾られるような刺激を受け、衛は堪える余裕もなく射精した。握られたままだったので、フィオレの掌に放出して汚してしまう。
「…っ!ん…、は、あっ…」
「そう、もっといっぱい出して」
「は…、ん、…嫌だ…」
「先に独りでイカせてごめんよ。でも、こうしなきゃ君が辛いから」
「……あっ!」
衛が放った精液に塗れた手で、フィオレは衛の双丘の窪みを撫でた。潤滑油代りに自分のものを塗られる感触に嫌悪して、衛の腰が逃げて行く。だがその身体を押さえて、フィオレは探り当てた蕾に指を捩り込んだ。
「……っ!!」
「動かないで。もう、すぐに挿れたいから。暴れると余計に痛いよ」
「や…だ、まだ無理…!」
「大丈夫、もう充分に咥えてるよ」
早々に二本指が挿っている。その指が交互に動かされ、内壁を甚振る。射精した後の余韻に疼く身体を内側から弄られて、衛は新たな快楽に身を捩り喘いだ。
「んぅっ!」
「ここ、気持ち良いんでしょう?でもここまでしか指が届かない」
「…んっ!…あぅ」
指先が、感じる部分を突付いている。でも物足りない。こうされると、もっと奥まで突き上げて欲しい欲求に、堪らなくフィオレを求めてしまう。
「フィオレ…、指、抜いて…」
「もう指じゃ物足りない?奥まで届く代りが欲しい?」
「……ん、んんっ」
「挿れるの、無理じゃないよね。僕のもこんなだし、すぐに挿っちゃうよ」
「あ…」
片方の手でジッパーを下して、フィオレは自分自身をズボンの中から取り出した。すっかり勃ち上がっているペニスの先を衛の下腹に当てる。
興奮して濡れた先端から、フィオレの雫が衛の肌に零れた。その零れた先に、同じように興奮した自分の性器が再び勃起している。
先程自分だけ楽になったばかりだと言うのに、すっかり反応している状態に衛は恥じて頬を紅く染めた。羞恥に甚振られて、益々欲求が増して来る。
「僕の、挿れるよ?」
「…フィオレ…、早…く!」
「衛くん…」
無意識に何度も頷いて、衛はフィオレの腕を掴んだ。焦らされて潤む瞳が哀願する。
フィオレは嬉しそうに衛に口付けて、応えて舌先を絡ませる衛の吐息を味わった。唇を奪いながら指を抜き、今度は自分自身を押し当てる。
指よりずっと大きな感触を押し当てられて、衛は再び腰を引いたが、しっかりと押さえ付けらえて逃げることは適わなかった。そのまま一気にフィオレの欲望を捩じ込まれる。
「―――っ!」
「…動かないで…!」
「…ん、あっ!」
「…っ!」
互いに濡れて滑り易い。既に慣れも手伝って、衛の蕾は楽にフィオレを受け入れた。先に指で広げられているので痛みは殆どない。スムーズにフィオレの塊を呑み込んでいく。
どこまでも押し入って来る挿入感と、どこまでも身体が沈んでいく堕落感に、衛は不安よりも恍惚の表情を浮かべて、フィオレにしがみ付いた。
「…ほら。もうすっかり慣れてるじゃないか。だって随分セックスしたもんね、僕たち」
「あ…」
「それなのに、どうしていつも拒むのかな。…それが衛くんだから、だろうけど。…衛くん、動くよ?」
「フィオレ、あっ!…んんっ!あ…っ!」
「…ふ。衛くん、すごく…イイ!!」
衛の内で更に脹らんだ欲望を解放する為に、フィオレは律動し、衛はそれに合わせて喘いだ。呼吸を合わせると楽なのか、彼はいつも下半身をフィオレの望むように揺らしてくれる。
「あ…、フィオレ…!そこ…!」
「判ってる」
同時に内側を擦られるのが気持ち良いのか、適度に突き上げてやると衛は善がる。
衛がどうすれば悦ぶのか、もう幾度もセックスを繰り返したフィオレは充分に承知していた。
こうして暫く律動を繰り返してから、こちらの欲望に合わせた頃合いに激しく突いてやると、衛も大きく反応する。タイミングが上手く合うのだ。相性は悪くない。それとも覚えたセックスに従順なのか。いずれにせよ、衛の反応は常にフィオレを喜ばせた。
「はっ、あ…っ!」
「衛くん、僕が先にイキたい。僕が出してから君がイクんだよ」
「あっ!あ…っ!」
激しく腰を揺すられて、衛はフィオレに抱き付いて荒い呼吸で喘いだ。
腹にぶつかる衛のペニスが大きく膨れ上がっているのを、フィオレは感触で掴んでいた。
衛も長くは持ちそうにない。すぐにでも弾けそうだ
快感が訪れる度に仰け反る衛の喉元に、噛みつくようにキスしながらフィオレは追い込んで更に突き上げた。衛の喘ぎと同時にフィオレも小さく声を漏らす。
一点に集中していた血流が、遮る膜を弾いて放出する。熱い衛の体内に、フィオレの欲望が勢い良く放たれた。
「……っ!!」
「はっ!…あっ!!」
途端に止んだ動きに、フィオレが射精したことが衛にも知れる。堪った残りを放つ為に直後に動きは再開されるのだが、その暫しの沈黙の間に、衛はいつも新たな快感を覚えていた。
乱暴に突き上げられて、感じる部分を思い切り刺激されて追い込まれた頃に、一瞬フィオレは動きを鈍らせる。衛はどんなに朦朧としていてもいつも必ずそれが判った。そしてその時フィオレの喜びが自身の体内に伝わるのを感じるのだった。
感覚は麻痺していて、内に射精されても実際には何も感じない。けれど薄く開いて見上げた瞳に、自分を抱くフィオレの優しい解放に喜ぶ表情を認めた時、言いようのない愛しさと嬉しさが甦る。
幼い頃の出逢いの記憶。安堵。そして別離の辛さ。
大人になって再開したフィオレとのセックスの意味が、この一瞬だけ衛には理解出来るのだった。
「…衛くん、いいよ。君も…」
「フィオレ…、んんっ!」
フィオレが律動を再開させる。
その動きで衛は刺激され、射精を促される。我慢出来ずに、衛はフィオレに抱かれたまま、自身を解放した。
「衛くん、大丈夫?…ほら、ゆっくり呼吸して」
「ん…、は…っ、」
「気持ち良い…。君の内、とっても温かくて、凄く締め付けてくれるから、このまま出たくないな。ずっとこうしてて良い?」
「…嫌だ」
仰向けになってフィオレの身体を受け止めていると、体制的には苦しいのだ。だから解放した後は覆い被さる身体を跳ね除けたくなるのだが、言葉とは裏腹に、衛はフィオレを抱き締める腕の力を暫く緩めなかった。
「衛くん、どうしたの?」
「……」
「ごめん。苦しいよね」
「あ…」
衛の様子をどう受け取ったのか、フィオレはゆっくりと衛の内から自身を抜いた。放れるのと同時にフィオレの放った精液が幾筋か零れて、衛の腿を伝い流れた。
いつもなら衛はその感触にも嫌悪を示して顔を顰めるのだが、今は気付かないのか薄く開いた目でフィオレを見つめるだけだ。
「衛くん…?」
「……」
「少しだけ、こうしてても良い?」
「……うん」
フィオレは横たわる衛の背中に手を伸ばすと、抱きかかえて改めて自分の身体を重ねた。
頬が触れ、唇が触れる。
そのまま暫く二人は無言で抱き合い、衛はフィオレの心臓の音と唇に伝わる吐息をずっと確かめていた。
「薔薇が、随分散ってしまったね」
「…え?」
フィオレの言葉に、漸く辺りの景色を視界に取り戻した衛は周囲を見回した。
行為の最中に暴れたのだろうか。薔薇の花弁が散って二人の周りに沢山落ちている。フィオレと衛は薔薇の花に囲まれて、花弁の上で抱き合っていた。
「あ…、こんなに散らしてしまったのか。どうしよう」
「衛くんのせいじゃないよ。既に咲き過ぎてたんだ。僕達のエナジーがぶつかって、一気に花弁を散らしただけさ」
「…そんな事。何だか薔薇に見られてたのが、急に恥ずかしくなって来た」
「大丈夫さ。花はいつも僕の味方だもん」
キスを繰り返す。フィオレは何度も何度も衛の唇を追い、何度も何度もその温かさと柔らかさを確かめた。
互いの呼吸を貪る間も、薔薇は花弁を散らし、フィオレと衛の身体に舞い落ちた。
「別れも再開も、僕達いつも花の中だね。君をここで抱けて嬉しかった。有難う、衛くん」
「…フィオレ、」
「もうそろそろ帰ろうか。新種も薔薇も見られたし」
「え?何処にあったんだ?」
「ここだよ」
フィオレの視線の先には、小さな薔薇の蕾があった。
花弁を散らした薔薇の間に背の低い別種が覗いていて、淡い紅色の可憐な姿を露にしている。
「こんなところに…?」
「新しいエナジーを感じるから、間違いないよ。生まれたばかりの花だ」
「苗が紛れ込んだのか。でも、もうすぐ咲きそうだな」
「直に目覚めるよ」
フィオレは衛の身体を離すと、立ち上り衣類の乱れを直した。シャツの裾に衛が放った精液がこびり付いていたが、フィオレは気にはしなかった。その様子に衛が恥ずかしくなる。衛のシャツも汚れて皺になっていた。
「…ちょっと待て。お前、まだ行くなよ?」
「このまま別れた方がドラマチックなのに…」
フィオレはきょとんとした瞳を衛に向けた。
「帰るって、やっぱりこのまま行くつもりだったな!駄目だ、許さないからな!」
「どうして。だって僕、もう行かなくちゃ」
「まだ限界じゃないだろう。いいか、行くのはこの散った薔薇の花弁を綺麗に片付けて、ちゃんとオレを部屋まで送ってからだ!こんな格好で一人で帰れる訳ないだろう」
「…判ったよ」
何の為にわざわざ服を脱いだのか、自分の言い訳まで無駄にして勝手を述べる衛を、フィオレは呆れて見つめた。けれど滅多に見せぬ我侭な様子に嬉しくなる。
「君の部屋まで送り届ければ良いの?」
「そうだ」
「でも部屋に帰ったらベッドがあるじゃないか。僕またその気になっちゃうよ?」
冗談めかしてフィオレは笑った。
「……いいぞ」
「え?」
「もう暫く居ろよ。…あの薔薇が咲くのを一緒に見たいんだ」
「衛くん…」
薔薇の温室は、見事に咲き誇っていた。
風に煽られる訳でもなく、花弁はひらひらと散って、フィオレと衛の周りを舞う。
「咲いたら、また来よう。・・・多分、明後日かその次の日か。もしかしたら明日にでも咲くかも知れないけれど」
「そうだね。この花の誕生を祝福してやろう。僕はそれから行くよ」
薔薇の花弁が舞う。
二人はそっと唇を寄せた。
それから一ヶ月後。
衛は独りに戻った部屋で独りの夜に慣れた頃、電話を受け取った。
新種の薔薇の名前が「PROMISE −約束−」と名付けられた、と暮林からの報告だった。
■END■
ちょっとロマンチックなものが書きたいな〜、と思って書いたのですが、いつものエロと何処が違うのかと問われれば反論出来ないぞ…?あれ。 さて、ラストのあたり。まもるたんはフィオレの体力を甘く見た為に、うっかり思わせ振りな態度をしてますねー。その後どんな目にあったのかは自業自得と言う事で、皆様で楽しく想像してみて下さいませ♪ フィオレと衛には、やはり花をモチーフにした話が良く浮かびます。 薔薇の温室は美味しいエロ現場なので、また別の話で使うかも知れないな〜。そん時は別バージョンをよろしく。 >゜))))彡 2003.12.13 ※暮林氏は、セラムンS「嵐のち晴!ほたるに捧げる友情」のゲストキャラでした♪(話数忘れた…) |