何の因果か、名無しと羅狼は差し向かって酒を酌み交わしていた。



   『新春一発目!真剣勝負!』



「まぁ…一献」


徳利を傾ければ、羅狼は黙って猪口を差し出す。
満たされた杯を静かに飲み干した。
返杯という文化は明にもあるのだろうか。
名無しから徳利を受け取ると、今度は羅狼が酒を注いだ。
相変わらず無言だった。

何か話しかけられても名無しにはこの金髪の異人の言葉が分からない。
相手は名無しの言うことを理解しているようだが、こうも表情に変化がなくてはそれすらも疑わしかった。

注しつ注されつ、杯を重ねること数回。


「あんた、結構いけるくちなんだなぁ」


へらへらと笑いながら名無しは更に羅狼の杯を満たそうとした。
だが傾けた徳利からは一雫の酒が流れ出るだけ。
焦点のぼやけた赤い瞳で徳利の中を覗いた名無しは、追加の酒を持って来ようと立ち上がった。
どうにも足元が覚束ず、ふらふらしている。


「ん…?」


布に覆われた腕に熱い感触。
羅狼が無言のまま、名無しの腕を引いていた。
名無しは首を傾げるが、青い瞳は瞬き一つせず一点を見つめている。


「…ああ。今持ってくるから、少し待っていてくれ」


羅狼が徳利を凝視しているのだと思った名無しは、指で示しつつ説明してやった。
それでも羅狼の手は離れない。
もう一度説明しようと名無しが口を開いたその時。


「お、おい…」


両足が床から離れた。
体が宙に浮く。
止める暇もなく、徳利を持ったままの名無しは羅狼の肩に担ぎ上げられていた。
困惑する名無しを他所に、羅狼はゆったりとした足取りで別室へと移動する。


「運んでくれなくても、きちんと歩ける。そんなに待てないのか?」
「・・・・・・・・・・・・」


やはり無言であった。


廊下を折れ曲がること数回、羅狼はある部屋の前で立ち止まると襖を開けた。
目の前にはご丁寧に一組の布団。
ベタ過ぎる展開は閻魔様の差し金だろう。
敷布の上に下ろされた名無しは、酔いが回っているのか未だふわふわとした笑みを浮かべている。
状況が分かっていないのかも知れない。


そんな名無しの様子を気にするでもなく、羅狼はゆっくりと覆い被さった。
首筋に鼻先を埋め、結わえられた黒髪を解く。
くすぐったそうに身動ぎながらも、名無しに止める素振りはない。


羅狼の指が、着物の上を伝う。
襟元を乱すと、肌を直接撫ぜた。
唇は首から鎖骨を伝って胸元を舐め上げる。


「なぁ…あんた、何をしているんだ…?」


漸く自分が置かれている状況に気付いたらしい。
厚い肩を押し返して、それ以上の行為を制する。


「ヒメ…ハジメ」
「……何処でそんな言葉を覚えた」


名無しは嘆息した。
羅狼は名無しの台詞が理解できなかったのか、小首を傾げている。
うっかり「可愛い」などと思ってしまったのが名無しの敗因だった。


「ならば仕方がないか。ははは」


襟足にかかる金の髪に指を絡ませ、優しく梳る。
それ以上抵抗する気が失せてしまったのか、軽く抱き寄せ酒で桜色に染まった肩口に額を押し当てた。
その行為を是と受け取ったのだろう。
羅狼はこめかみに唇を寄せ、抱き締め返した。


帯を解き、直接下肢に触れる。
ひくりと下腹が揺れたが、拒む様子はない。
柔らかな笑みが浮かんでいた。
名無しの指も羅狼の下肢に伸ばされる。


絡み合う視線と舌。
吐息の触れ合う距離で互いを高めあった。
視界を白く染め、情欲を吐き出す。
乱れる呼気さえ逃さぬように貪った。


白濁に滑る指が押し入る感覚に腰が戦慄く。
圧迫感に歯を食いしばって耐えれば、口付けが優しく髪に、額に、頬に降り注いだ。
微笑んで大丈夫だと伝え、受け入れる。


這い入る怒張に息を詰め、引き摺り出されるたび瞼を震わせる。
触れ合う肌はどちらの熱か分からぬほどに熱く、互いを焼き尽くした。


覗き込んだ瞳の奥、映るは自分の姿のみ。
その情景に眩暈すら覚え、相手の意識途切れるまで奥深くへと叩き付け続けた。







作者さまコメント/

「酔ったら羅狼は無言になる」、「名無しはふわふわ笑ってたら可愛い」と某Iさんと話していて思いついた話。
酔っても名無しの懐の深さは変わりません。
ネタ的にベッタベタで申し訳ないです。



雨城由鏡 さま から頂戴しました。

お年賀企画をされていたのでチャンスとばかり強奪!
リクエストにお応え下さるとの事でしたが、申し訳なくて言い出せなかったところ「羅狼x名無しの18禁で良いですよね♪」とツボを突いて下さいました。

こういう羅狼と名無しが読みたかったんです。有難うございました!



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